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UPデータ評価
66 2005.8.30
ぼくとガモフと遺伝情報
ジェイムズ・D.ワトソン著 / 大貫 昌子訳
白揚社 (2004.4)
?\3,045
☆☆☆☆


 タイトルを見た瞬間、これは面白そうだと思って飛びついた。著者は言わずと知れたDNAの二重らせん構造を発見しノーベル賞を受賞したジェイムズ・ワトソン。二重らせん構造の発見までの自伝は『二重らせん』で面白おかしく語られていた。それだけに続きが楽しみなのに加えて、ビッグバン宇宙論の提唱者であるジョージ・ガモフがタイトルにも載っている。さらに遺伝情報、ときたら面白くないわけがない。

 読み始めたら、その登場人物の豪華さにくらくらさせられる。本書ではワトソンらが重大な発見を成し遂げた後が書かれているので、一介の若い研究者だった時代とは随分雰囲気が異なっているのだ。

 職を得たカルテクで同僚となるのはワトソンと共にノーベル賞を受賞したフランシス・クリックは勿論、彼らとDNAの姿について先着の栄誉を争った前世紀最大の化学者の一人でノーベル化学賞と平和賞を受賞したライナス・ポーリング。天才的なひらめきと非凡な魅力に溢れたノーベル物理学賞受賞者のリチャード・ファインマン。ここに生物学の時代の幕開けを告げたワトソンが加わって、物理化学生物の各分野で多大な貢献をした当代一流の人物が揃う。

 そこに加わるのがガモフにクリック、レオ・シラード(ルーズベルトに原爆開発を進言するようアインシュタインを説き伏せ、開発成功後は投下に反対した)やマンハッタン計画で科学者達を率いたオッペンハイマー、と錚々たるメンバー。ちょい役でワインバーグ・サラム理論でノーベル賞を取ったサラムまで出てくる始末。

 豪華メンバーに囲まれながら、やはり若い男の心を占めるのは女性。すんなり上手く行かない不器用なところにちょっと親近感を感じたものである。

 当然、遊んでいるばかりではない。DNAの2重螺旋構造発見以降、生物学は飛躍的に発展したわけだが、その中心にワトソンはいたのだ。あるときはジョージ・ガモフと、クリックと、ファインマンとRNAやタンパク質合成やタバコモザイクウイルスの仕組みやらといった課題に取り組む。『二重らせん』の時には誰にでも結末が分かっているが、今回はどうなるか。ワトソンから見た生物学激動の時期を魅力的な人々との係わり合いを通じながら追いかけるのは実に面白い。ただ、ワトソンのロマンスに関することもかなり多いので、それを楽しめるか楽しめないかで本書の評価が大きく変わるかもしれない。
UPデータ評価
67 2005.9.7
脳のなかの幽霊、ふたたび
V.S.ラマチャンドラン??著 / 山下/篤子??訳
角川書店 (2005.7)
?\1,575
☆☆☆☆☆


 脳研究の最先端を懇切丁寧に説き、知的興奮を覚えながらもべらぼうに面白い『脳のなかの幽霊』のV.S.ラマチャンドランが帰ってきた。その出来は2作目を待ち望んだ多くの人の要求に応えるだけのもので面目躍如である。

 数ある脳の本でも、なぜラマチャンドランの本が面白いのだろうか。それは、複雑そうに見える脳の機能を簡単な試験で読者に実感させていることや、自説の成否を簡単に判別できるようなテスト方法を提案することにあると思う。読者は自分でできる試験をやってみて、不思議な現象を知ることができる。

 もう一つは、取り上げる現象があまりにも興味深い事例であることに起因すると思う。左半分を無視する半側無視や自分の母親を偽者と断じたり、自分は死んでいると主張する患者達。なぜそのようなことが起こるのか。症状の本質的な原因は知らなくとも、顕れる現象だけでも十分知的好奇心を刺激させられる。さらに、芸術と脳、あるいは言語学と脳、など、多くの先人がなかなか踏みこまなかった領域にまで入り込んでいるところも面白い。

 そして最後に指摘したいのは、その文章の余りと言えば余りの平易さである。脳科学と言えばなにやら難しそうな印象を受けるだろうが、ラマチャンドランの本はそうではない。極めて分かり易い文章で一見難しそうなことを解き明かしてくれることこそ、著作を面白くしている最大の要因であると思う。一般人に分かり易く最先端の科学を説明するのは並大抵の能力ではできないことで、私としてはここに非凡なる脳科学最先端を知る語り手が現れたことを心から嬉しく思う。

 さて、本書の内容についてもちょっと触れておこうと思う。本書はラマチャンドランがイギリス各地をまわりながらの連続講演をもとに組み立てられている。ラマチャンドランは”この連続講演をするにあたって私が目指したのは、神経科学(脳の研究)というものを、一般の方々に(トマス・ハクスリーふうに言うなら「労働者」に)もっと身近に感じてもらえるようにしたいということでした”と述べている。それはおおむねこれまで述べてきたように達成されているように思う。取り上げている内容は、幻肢や自閉症の一部の患者が示す特異的な才能を特徴とするサヴァン症候群、数字を見たら色が見えるというような複数の感覚を同時に体験する共感覚、体を動かす1秒近く前に脳で発生する準備電位など、どれを取っても面白そうなもの。

 恐らく、多くの人は手に取ったら一気に読んでしまうのではなかろうか。唯一の欠点は、すぐに読み終わってしまうところである。
UPデータ評価
68 2005.9.10
人類はなぜUFOと遭遇するのか
カーティス・ピーブルズ著 / 皆神 竜太郎訳
文芸春秋 (2002.7)
?\1,000
☆☆☆


 UFOは字義通りに解釈したら確定されていない飛行物体であるから、そんなものは存在するに決まっている。では、宇宙人の乗り物としてのUFO、となるとどうだろうか。

 宇宙人がUFOに乗って地球にやってきている、と信じる人々がいる。本当だったら素晴らしいことだろう。もし本当に来ているなら、その進んだ科学によって例えばフェルマーの最終定理が正しいのか教えてもらったりできただろう(ワイルズの栄光は失われてしまうことになるけど)。現実のところはどうなのだろうか。

 オカルトに興味がある人には、ロズウェル事件だとかケネス・アーノルドだとかアダムスキーだとかエイリアン・アブダクション(誘拐)だとかキャトルミューティレーションなんて単語を聞きなれているだろう。しかし、それら事件がどう収束して行ったのか、知る人は少ないのではないかと思う。

 本書の凄いところは、UFO目撃情報から当局の動きまで、膨大な量のオリジナル資料を駆使してUFO神話の栄華盛衰を追いかけているところにある。UFO神話は如何にして始まったのか、そして進化したのか、そして現在に至っているのか。なぜ神話は成立したのか。なぜ空軍やCIAはUFO神話に絡んで行ったのか。全てオリジナル資料に基づいて丁寧に解き明かす。有名なUFO目撃事件についても事件の経緯からその真相まで全て記している。巻末に宇宙人解剖フィルムの種明かしがあるのもファンにはたまらないのではなかろうか。UFO好き(^^;)は読んでおくべき。
UPデータ評価
69 2005.9.11 ☆☆


 最も面白みのない選挙戦が終わった。色々なところで指摘されていた通り、今回のはまっとうな選挙なんてものじゃない。小泉劇団の演劇を面白かったと思ったかどうかの投票に過ぎないのだ。刺客騒動だのマドンナ旋風だの、それが具体的な政策とどう結びつくのか全く不明の、空虚な話だけがひたすら声を大にして行われた。

 私はテレビをほとんど全く見ないので伝聞に過ぎないが、ワイドショーまで小泉劇一色に染まってまるで自民党の広報番組になっていたという。真偽の程はしらないけど、電車の中吊り広告を見る限り週刊誌はそうだったと思う。空虚だけど、話題だけはたっぷりある。ああ、虚しい。

 では、この現象は日本だけなのか。アメリカのメディアはどうなっているのか、過去の大統領選をもとにメディアと選挙の関係を解説している本書を読んでみた。言えるのは、日本もアメリカも実はそう大差のないことが起こっているのではないか、ということ。アメリカのメディアは日本よりもはるかに”資本主義的”になってきているため、やはり”絵になる”シーンがなければ話にならない。そのため候補者の話もつまみ食いされ、政策や理念を十分に理解できるようなものではないようだ。

 勿論、アメリカにだけあって日本にないものもある。それは制度的なものであったり思想的なものであったりするのだろうけど、例えば選挙コンサルタントが政権中枢に入り込む場合があることなどは我々からみたらにわかには信じられない。しかし、それは大勢に影響のないことで、やっぱり選挙ニュースは娯楽として消費されているのは変わらない、という指摘は重要である。選挙がスポーツ観戦となる、あるいは候補者が商品となっていくのは日本も同じである。

 アメリカでも日本でも政権党と最大野党の主張の差が極小化し、生命への差し迫った危機がなく、少なくとも現時点においては繁栄を貪っていられる場合にはどこも同じようになるのかもしれない。

 本書はまた、選挙報道を通じてアメリカのメディア史を追いかけている。この点もなかなか面白いので、ジャーナリズムの歴史に興味がある方にも一読を勧めたい。

 ただし、選挙の過程の報道で理念や政策が十分に伝えられないのは、本書の指摘するような”ジャーナリズム内部”の事情だけではなくて”ニュースを消費する”側の事情もあるはずである。しかしながらその点に触れられていないのが残念。

 今回の選挙の報道が余りに酷かった理由は、その程度の報道で満足して投票できてしまう情けない国民の姿をさらけ出していると思う。自分が支持しない政党が圧勝したからそう言うのではなくて、自民党に投票した人も他の党に投票した人も、未だに郵政民営化のメリットとデメリットを理解していないだろう。それは我々自身の問題でもある。選挙報道だって、所詮国民の身の丈にあったものに過ぎないのだから。そういう問題に触れてくれなかったのが、評価が低い理由なので、読み物としてはもっと高く評価しても良いと思う。
UPデータ評価
70 2005.9.16 ☆☆☆


 宇宙物理学者の池内さんはまたそのエッセイでも有名である。面白いエッセイストに共通するのは話題が豊富なことが挙げられると思う。さらに、面白い経験を積んでいることが必要だろう(面白い経験というのは日常生活の中にも幾らでもあって、そこに気付くか気付かないかが問題だと思う)。池内さんはどのどちらも申し分ない。おまけに文章は分かり易く丁寧。となれば面白いエッセイとなるのはもう約束されたようなものだ。

 遺伝子組み換え食品や狂牛病、スペースシャトルの安全性(コロンビア墜落の前に書かれたエッセイです)、科学と社会はどのように付き合って行くべきか。あるときには科学の面白さを、またあるときには科学の行きすぎを、自分が経験した環境に配慮した家作りを、専門の宇宙についての話を、と多岐に渡る話題を提供してくれる。面白いのは間違いない。

 でも、ちょっと違和感を感じる。それは、絶対の安全を要求しているように見られるところがある点である。絶対の安全などというものは存在しない。ではどこまで安全を追求するか。可能な限り、というのが最も多い答えかもしれないけど、それは間違いである。BSE対策としてアメリカの牛肉を輸入しないのはどこまで安全性を増せるのか。実のところ、毎日のようにアメリカ産の牛肉を食べたとしても個人にとっては限りなくゼロに近いリスクしか生じない。現実問題としてのリスク回避には危険部位の除去だけで十分である(ただし、危険部位が安全な方法で除去されていることは確認する必要がある)。

 また、あるところでは環境ホルモンを取り上げているが、今では所謂環境ホルモン騒ぎはすっかり廃れている。その最大の理由は、環境ホルモンに騒がれたような作用がほとんど全くない/作用があまりに微小なもので無視しても差し支えないということが明らかになったことだ。ところが、本書では危険の可能性があるのなら避けたほうが良い、というように纏められている。しかしながら、微少の化学物質が100%完全に人体にも環境にも負の影響を与えないという証明はとてもできない。膨大な費用と時間と労力がかかってしまう。

 このような問題には、リスク評価を導入して総合的に考える必要があると思う。喩えの話になるが、日常で食卓に並ぶような食材でも含まれている物質を精製してみたら何らかの悪影響を及ぼしうるものが発見されるだろう。ではそれゆえにその食材は使うべきではないのか。そうはならないと思う。リスク評価については以前も紹介した環境リスク学の方が遥かに優れている。また、100円傘とベストエフォートと題した記事は投資に対する効果として極めて示唆に富んだものなので一読をお勧めしたい。

 全体としてとても面白かっただけにこのような点はとても残念ではあるが、エッセイに完全を求めても仕方がない。読みものとしての面白さから残念な分を引いたのでちょっと評価は辛めだけど、読んで損はないと思う。




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