注:オンライン書店bk1内にて購入可能な場合、タイトルにリンクを設定しております。
リンク先から簡単に購入できます。1500円以上買い物をすると送料が無料になります。なお、値段は税込みです。(但し、このサイトへの掲載当時の値段)


UPデータ評価
86 2005.12.8
光速より速い光
ジョアオ・マゲイジョ著 / 青木 薫訳
日本放送出版協会 (2003.12)
\2,415
☆☆☆☆☆


 タイトルを見て、これはゲテモノだ!と思った方。あなたは間違ってます。

 アインシュタイン(の相対性理論)は間違っている、というのはトンデモの揺るぎもしない1ジャンルを占めている。光速の不変性という直観に反する主張は、しかし厳密にコントロールされた実験で何度も実証されている、確固たる事実なのだ。それなのにこのタイトルは一体?その疑問までは正しい。

 著者が主張する、光速よりも速い光というのは宇宙開闢後のほんのわずかな時間だけに成り立つ極めて限られた現象である。その現象が起こることによりどのようなことが起こるかというと、それはもう様々なことが起こる、という。なんと、現在のビッグバン宇宙論の主流派であるインフレーション宇宙論がゴミ箱に放り込まれてしまうかもしれないというのだ。

 インフレーション理論が重宝されるのは、これが地平線問題と平坦性問題という全く別個でありながら、いずれも登場当初のビッグバン宇宙論では解決できなかった問題を解決したからである。知らない人のために簡単に説明してしまおう。

 地平線問題というのは、宇宙がどちらを向いても同じであるのはなぜか、ということである。冬のお風呂を想像して欲しい。上は熱くて底は冷たいだろう。温度を均一にするには一度風呂釜全体をかき混ぜなければならない。逆に言うと、かき混ぜられるまでは温度のバラツキがあるということだ。ビッグバン宇宙論では、宇宙は急激に膨張したので一様にかき混ぜられるだけの時間はなかったことが示される。なのに、COBE衛星を使った調査では、宇宙のどの方向を見ても温度のバラツキが極めて小さい。これはなぜか。

 平坦性問題というのは重力が問題となる。ビッグバンの爆発のエネルギーで物質はバラバラに飛び散るが、その一方で互いの間に働く重力が再び総ての物質を一箇所に集めようとするはずである。総物質量がちょっと少ないと、膨張を食い止めようとする引力が小さいため、銀河はおろか惑星すらできないほどのスピードで物質は飛び散ってしまう。しかし、ちょっとでも多すぎると膨大な引力のため、爆発のエネルギーでは物質を散らせず、いわば一瞬で巨大なブラックホールができるだけでこれまた銀河もできなくなってしまう。問題なのは、今の宇宙を作るために許される総物質量が余りに微妙な綱渡りに成功したように見えるということだ。許容幅が余りに小さいため、とても偶然にこのようなことが起こったとは思えない。

 この問題を解決したのがインフレーション宇宙論で、発見者であるアラン・グースの『なぜビッグバンは起こったか』は非常に面白い本であった(アラン・グースとは別個に、しかも同時期に日本の佐藤勝彦が同じ理論に辿り着いていたことは特筆されてしかるべきだと思う)。インフレーション宇宙論の持つ圧倒的な力が、宇宙論の主流の地位を確立するのにはそんなに時間がかからなかった。

 しかし、インフレーション宇宙論には欠点もある。実験によって理論の正しさを証明することが極めて困難なのだ。数学的には問題がないかもしれないが、それでは全幅の信頼を置くには早すぎる。

 そこに登場したのが、宇宙開闢当初は光速が今とは違っていた、という理論である。光速が今よりもずっと早ければ地平線問題は消滅する。宇宙が小さい頃に光が宇宙の端から端まで通り抜けていたのであればどちらを向いても同じような条件なのは不思議ではない。そして、平坦性問題にも同時に解決の道しるべを与えることができるというのだ(こちらは話せば長くなるので本書を見ていただきたい)。更に重要なことは、この理論は実験によって当否を判断できるということである。

 ニュートンの万有引力の法則はアインシュタインの相対性理論によって修正が必要であることが示された。相対性理論も同様に修正の必要があるのかどうか、この理論の後を追いかけるのが楽しみになる、そんな本だった。残念なのは、私に数学の素養がないため数学的に理解できないことである(本の中に数式はほとんどまったく出てこないが)。

 おまけだが、著者はイギリスで学ぶポルトガル人である。その型破りな行動がとても面白く、過激な物理学者の自伝としても十分に面白い。ラテンのノリが発揮されすぎてちょっとお下品になってしまっているところもあるが、どちらかというと面白い方に作用していると思う。宇宙論に興味があるなら読んでおくべし。




UPデータ評価
87 2006.1.14
もしも月がなかったら

ニール・F・カミンズ著 / 竹内 均監修 / 増田 まもる訳

東京書籍 (1999.7)

☆☆☆☆☆


 月が満ちて欠けていく。潮汐力によって満潮や干潮といった現象が起こる。あの大空に浮かぶ月がなかったら、いったい何が起こるだろうか?

 月は、巨大な彗星だか小惑星が若かりし頃の地球に衝突して分裂した破片からできた、というのはほぼ間違いがない。この月を生み出した天体が、ほんの少しその軌道をずらしていた結果として衝突が起こらず、月が誕生しなかったら。中秋の名月が見られなくなって風情がなくなるとか満潮や干潮がなくなる、なんてレベルではない大きな変動が起こってしまう。

 月がない世界では、地球の自転スピードはもっとずっと早い。潮の満ち引きがなければ生命が誕生する時期もずれていたかもしれない。生命にとって地球は今よりもはるかに過酷な環境になっていたのである。

 そんな、ありえたかもしれないIFの世界の地球はどのような姿をしていたのか。月がない、あるいはもっと大きな月だった、マイクロブラックホールが地球を通過した、地軸がはるかに傾いていたら。一見ありえなさそうでありながら、決してそうであっても不思議ではなかった世界を知るほど、地球が生命にとってとてもすばらしい環境であることがわかる。多くの些細な偶然が今を生み出しているのである。

 しかし、この本が面白いのはそうした地球礼賛に終始せず、優れたシミュレーションを見せてくれることにある。もしかしたら、他の恒星を巡る惑星には、実際にそのようなことが起こったかもしれない。そんな世界はどうなっているか、想像をめぐらせるのはそれだけで十分に楽しい娯楽である。下手なSF小説よりもはるかに面白い世界が広がっているのである。シミュレートが面白いから本書は面白いのだ。地球史に興味がある方にお勧めである。




UPデータ評価
88 2006.1.14
物のかたちをした知識

デービス・ベアード著 / 松浦 俊輔訳

青土社 (2005.9)

☆☆


 タイトルを見て衝動買いしてしまったのであるが、後悔させられた。私は化学畑出身なので、実験器具といえば分液ロートだとかリービッヒ冷却管だとか、と言ったものを思い浮かべるのであるが、そうではなかった。私はこんな感じの器具が体現している知識の例だと思っていたのである。

 本書で取り上げられている、物が知識を含んでいる例はマイケル・ファラデーの電動モーターや水車模型、ワトソン−クリックの二重らせんモデル、サイクロトロンといったもので、それらの記述はとても面白いものである。

 しかしながら、本書は科学哲学の本なのだ。”実験機器の哲学”というサブタイトルはあるが、むしろポパーらの科学哲学を批判しているのが中心であるように感じられた。で、私は科学哲学には興味がない。なにしろ、私は哲学は現実を説明できない欠陥品であると見做しているためである。

 なぜ科学哲学なんてものがあるのか。過去、哲学者たちが世界を説明しようとしてきた。やがてその一派は科学へと発展し、別の一派は哲学へ進んだ。そしてこの哲学の一派は世界をまったく説明できなかった。そりゃあもう悲惨なほどに。なぜなら、彼らの議論は決して実証的にならず、実例を考慮するにしてもそれは想像に留まっているからである。そして哲学者たちの敗北が明白となって科学の成功が目に付いたとき、生まれたのが科学哲学である。しかしながら、科学哲学はこれまた悲惨なほどに科学のあり方を説明できない。ポパーの科学革命論が文系の学問にしか当てはまらず、科学者から軽視されていることは無視すべきではない。であるのに(あるいは、であるから)、文系の人々は科学のありようとしてポパーの科学革命論を好み、それにしがみついている。そんな類のものに関わるのは、時間の無駄である。

 そんなわけで、後半は読み飛ばしたのでほとんど頭に入っていない。上記の機器について、興味がある方は読んでみても良いかもしれないが、決してお勧めはしない。




UPデータ評価
89 2005.1.14
生命最初の30億年

アンドルー・H.ノール著 / 斉藤 隆央訳

紀伊国屋書店 (2005.7)

☆☆☆☆


 掲示板にて常連のえむばっしさんに教えて頂いた本。

 古生物といえば、やはり主役は恐竜であろう。私も子供の頃から恐竜が好きで、科学博物館に連れて行ってもらったり、児童書を読んでもらった記憶がある。その後熱心な恐竜ファンになったわけではないにしても、恐竜展があったりするとワクワクして覗きにいってしまう。

 恐竜以外の古生物のヒーローといったら、三葉虫やウミサソリ、アンモナイトといったあたりであろうか。そこにアノマロカリスのようなカンブリア紀の怪物たちを加えたら十分だろうか。

 しかしながら、カンブリア紀に多様なデザインをもつ生物が発生してから今までの期間は、生命の歴史にとっては非常に短い時間に過ぎない。多細胞生物が発生する、そのもっと前には気が遠くなるほど長い細菌たちの歴史があるのだ。

 考えてみれば細菌は可哀相な存在である。生命の誕生について語られる際にはRNAワールドだのたんぱく質の世界だの、果ては宇宙空間での有機合成の話まで遡ってしまうのに、一旦誕生してしまった後を語ると途端に細菌の時代を大急ぎで通り抜けて、(たいていは一目散に)恐竜の時代まで行ってしまうのである。これほど彼らにとって不条理なこともあるまい。

 そんな不遇な細菌たちにも日の目を浴びる日がきた。本当に日光に当たったら死んでしまうのだけれども。地球が誕生してからカンブリア紀の爆発的な生命進化までの通史である。生命40億年の歴史の大部分を占める細菌だけの世界。そこにも多くの奇跡とドラマがあったことがわかってとても面白い。話題も豊富で、興味をかきたてられる。火星に生物はいるのか(あるいはいたのか)を知るのに細菌の時代を解き明かすテクニックが使える。あるいは、細菌の活動から全球凍結といった地球の激動の歴史を垣間見ることができる。そんな記述だけでも楽しむことができる。古の時代に思いを馳せて楽しめる、そんな一冊である。

 なお、この本を読んで面白いと思った方には以下の本もお勧めである。

 『生命40億年全史』 生命の40億年の歴史を一冊で語ってしまおうという大変な意欲作。説明の羅列に終始せず、実に面白くまとめ上げたのはみごと。

 『三葉虫の謎』 三葉虫学者たるリチャード・フォーティによる、一冊丸々三葉虫の本。三葉虫もさまざまなバリエーションを持った生物だったのだと実感させられる。

 『カンブリア紀の怪物たち』 バージェス頁岩でカンブリア紀生物進化を発見したサイモン・コンウェイ・モリスによるカンブリア紀の奇妙な生物の紹介。こんなのがいたのかと絵を見るだけでも楽しめる。

 『共生生命体の30億年』 ミトコンドリアや葉緑体が共生によって細胞に取り込まれたとするリン・マーギュリスの著。遺伝子進化とは異なる進化のあり方が面白い。




UPデータ評価
90 2006.1.20
エラゴン

クリストファー・パオリーニ著 / 大嶌 双恵訳

ソニー・マガジンズ (2004.4)


エルデスト 上

クリストファー・パオリーニ著 / 大嶌 双恵訳

ソニー・マガジンズ (2005.11)


エルデスト 下

クリストファー・パオリーニ著 / 大嶌 双恵訳

ソニー・マガジンズ (2005.11)

☆☆☆☆☆


 久々に骨太のファンタジーを読んだ。エルフ、ドワーフ、ドラゴン、魔法、魔剣と話を盛り上げるネタが揃っているからといって面白くなるとは限らない。確固たる世界がなければ、ファンタジーは面白くならないのである。

 そういう観点からも、このシリーズは他の多くの作品を圧倒する。歴史、文化、言語など深く練られた設定に多彩な人物が織り成す冒険譚に時間を忘れて引き込まれるだろう。かく言う私も更新する時間を惜しんで読みふけったものである。

 1巻では主人公・エラゴンとドラゴン・サフィラの旅立ちが、2巻では彼らの成長と戦う目的の明確になり、さらに主人公たちだけにとどまらず世界全体が激動の時期を迎える。どの描写も丁寧で伏線が多いので場面が切り替わっても散漫な影響を受けない技量は見事なものである。『指輪物語』に代表される”剣と魔法の世界”が好きな方は必読といっても過言ではなかろう。

 ハリポタよりももっと高い年齢が対象とされているイメージ。私にとってはハリポタよりも続きが気になる新たな名作である。続きが楽しみで仕方がない。




前へ   目次   次へ


検索エンジンなどから直接辿り着かれた方はこちらから入りなおしてください
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送