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121 2006.4.26
鼻ほじり論序説

ローランド・フリケット著 / 難波 道明訳

バジリコ (2006.3)



 やってくれたぜ、バジリコ!

 と思って飛びついたのだが、これはとんでもない駄作。この手のものはすごーく真面目に書いたら面白くなるのに全編中途半端なパロディなのががっかり。プレイボーイみたいな雑誌に載るような読者からのセックス相談をパロディにしているのは面白かったけど。

 とんでもないジャンルのものを真面目に書いているのでは、たとえば『fの性愛学』なんてのがある。大きな声では言えないけど、ずばりフェラチオの通史である。これはもう心底真面目にその歴史や文化を語っているわけで、そこに面白さがあった。こういう風にやってくれたら良かったのに、残念。

 この書評を読んで、評者はいったい何を読んでおるのかと思われた方、あなたは正常です。




UPデータ評価
122 2006.4.26
そして粛清の扉を

黒武 洋著

新潮社 (2005.2)



 そんなに殺人が好きですか?という疑問を感じる一冊。

 一人娘を暴走族に轢き殺された女性教師が悪の巣窟と化した自分のクラスの生徒を人質に取り、次々と処刑していく。警察やマスコミを巧みに操作しながら復讐を遂げていく。ところが、このクラスの中には娘の仇はいない。そこで考え出した手は――

 ネタバレ防止に以下反転。

 まず、伏線が全然生かされていない。人質の一人は父がヤクザだという設定が出てくるのだけど、こいつはただ犯人が要求した身代金を集める役だけで終わってその後は姿を見せない。なんなの、この人。
 あたかも宇宙戦艦ヤマトの真田さんのような唐突な設定には後出しじゃんけんのような後味の悪さを感じさせられる。たとえば、弦間の子供が暴走族のせいで間接的に死んだことなんて、それを想定させるようなことをまったく見せずに突如出てくる。確かにこの生徒たちはクズなんだろうけど、だからといって部外者である犯人が一方的に断罪してもあまり説得力がないだろう。それに、あまりといえばあまりにクズが集まりすぎ。

 やはり、仇討ちは酷い目にあった被害者が加害者に復讐するというのが美しいわけで、そういった点で森村誠一の『星の陣 上』、の方がはるかに面白い。こっちのほうが話も壮大だし。迫撃砲などの旧軍の武器ででヤクザ組織にカチ込む老人たちは格好よかった。

 とにかく、人が死ぬシーンが大量に出てくるのでそういうのが好きなヒトは読んで面白いかもしれない。それと、無駄に読みづらい漢字を使ってインテリぶるのはうんざり。私もたまに一般的じゃない表記を敢えてするけど、それはあくまで自分の年齢とのギャップを感じさせるなどの目的があってのこと。一冊まるまるこの手のことをやられるとつらい。こんなレベルのものがホラー大賞受賞だったら、その賞は高が知れているな、と思わされた。




UPデータ評価
123 2006.4.29
クルスク大戦車戦

青木 基行〔著〕

学研 (2001.5)

☆☆☆


 1941年、ドイツは突如ソ連に侵攻を開始。所謂、バルバロッサ作戦の発動である。スターリンによる軍幹部粛清や防禦体制の不備(ヒトラーは『我が闘争』でソ連と決して相容れないと主張していたにも関わらず、スターリンはドイツが攻めてくるとは信じていなかった)もあり、ドイツは怒涛の勢いで各地を席巻し、わずか半年でモスクワ近郊までドイツ軍が迫る。

 ところが、やはりソ連は広く、抵抗力は大きかった。関東軍だけで中国全土を征服できるわけがなかったのと同様、ドイツが全力を挙げてもソ連を征服することはできるはずはなかった。それでも、東部戦線に限ってはドイツに有利な集結を迎え得たかもしれない。だが、ヒトラーの頑迷な戦争指揮とスターリンの強固な防禦体制の構築は、1941年冬のモスクワ戦、翌1942年冬のスターリングラード攻防戦の勝利へとソ連を導くことになる。

 モスクワ、スターリングラードではソ連がドイツの侵攻をとどめたに過ぎないのに対し、1943年に行われたクルスクの戦いはドイツの敗北を確定付けた。ドイツには敗北、それも惨敗しか残っていないことを示したことにある。本書はそのクルスクでの戦いを多角的な面から描き出す。

 士官、軍編成、装備、機械性能などは文庫としては破格の詳しさである。言い換えれば、かなりマニアックであるということだ。クルスクでの戦いが戦車戦であったことを考えると、双方の戦車がどのような性能を持っていたのかは欠かせない点を考えると、実は親切なつくりであることが分かる。そして、最終章でいよいよ戦闘の全体的な流れとなる。そこに興味がある(読者のほとんどを占めると思われる)方にとっては待ち遠しかったシーンだろう。これがかなり丁寧に分かりやすく書かれていて面白い。全体的に高く評価できると思う。

 それにしても問題なのは、個人的にヒトラーのドイツもスターリンのソ連も両方問題を抱える国家だったわけで、それゆえなかなかどちらかを応援しようという気になれないところである。




UPデータ評価
124 2006.5.2
論理で人をだます法

ロバート・J.グーラ著 / 山形 浩生訳 / 千野 エーイラスト

朝日新聞社 (2006.3)

☆☆☆


  論理についての本が面白くなるかつまらなくなるかは主題以外によるといっても過言はなかろう。単に論理の組み方だけを解説した本は無味乾燥で面白くないものだ。

 では、本書の面白さはどこにあるのか。

 思うに、論理を身につけるために論理を説明するのではなく、論理的ではない例を大量に集めることで騙されない心得を教えてくれることにあるのではないか。

 はぐらかし、ごまかし、単純な論理の間違いなど、誤った論理はそこかしこで見られる。そこに騙されないことから価値ある議論は生まれるのだ。

 もう一点、取り上げる例が面白いことにも触れておくべきだろう。

 我々が完璧ではありえない以上、誰しも間違った論理を使ってしまうのは避けられない。いちいち目くじらを立てて誤りを探すより、こんなこともあるのだと覚えておくことで心に余裕を持つ、というのが本書の正しい使い方ではなかろうか。




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125 2006.5.6
女王の百年密室

森 博嗣著

新潮社 (2004.2)



 読み始めたから最後まで読んだ、という感じの本。この一文で分かるとおり、別に面白くない。オチは酷い。地に足の着いていない空想都市で起こった密室殺人。もちろん、あらゆる密室殺人は真の密室で起こったわけじゃない以上、なんらかのタネがあるわけだけど、そのタネに納得させられるかどうかが作者の腕の見せ所。で、これは失敗作。

 森博嗣のファンであれば目を通す価値があるかもしれない。

 これを読んでの違和感は、ひょっとしたら森ワールドに共通するかもしれない。『すべてがFになる』では孤島の研究所という変人が集う条件を上手く出せていたわけだけど、それは偶然納得のいく世界ができていただけなのか。そんな疑問を感じさせた。

 というのは、結局、登場人物があまり人間臭くないことに帰結する。たとえば、犯人が殺人を犯す理由が変人だから、じゃあ誰も納得しないわけで。そんな感じで、魅力の感じられないキャラクターとリアルさを欠いた世界。その二つの欠点を覆い隠せる世界を描けたら、面白くなるのかもしれない。







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