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UPデータ評価
131 2006.5.13
ミュンヘン

マイケル・バー=ゾウハー著 / アイタン・ハーバー著 / 横山 啓明訳

早川書房 (2006.1)

☆☆☆☆


 1972年9月5日。ミュンヘンのオリンピック会場内、イスラエル選手村に8人の男が侵入、選手とコーチを殺害し、9人を人質に取る大事件が発生した。犯人グループはパレスチナ解放機構(PLO)傘下のテロ組織、黒い九月(ブラックセプテンバー)だった。不手際も重なり、人質全員と警官1名および犯人のうち5人が死亡、3名が捕らえられるという結末を迎える。イスラエルとパレスチナ。今も解決されていない問題は、かつては世界中を巻き込んだ武装闘争だったのだ。

 イスラエル側は報復として非常の手段を採ることを決める。黒い九月幹部の暗殺である。その最終目標は、PLO議長アラファトの側近、アリ・ハサン・サラメ。彼は、イスラエル独立戦争で絶大な力を発揮し戦いの渦中で戦死した父ハサン・サラメの軌跡をたどるように、PLO内で頭角を現し、やがて血塗られた王子の異称を持つ残忍なテロリストとなっていった。

 本書は1972年5月のサベナ航空機ハイジャック事件で幕を開ける。背後で糸を引いた者こそ、アリ・ハサン・サラメだった。そこで場面は父ハサン・サラメの時代に戻る。アリ・ハサン・サラメを語るには、父ハサン・サラメを避けて通れないから。そして驚くべき親子2代の歴史が明かされる。

 パレスチナとイスラエルの闘争は、イスラエルの覇権確立とともにパレスチナが辺境へ追いやられ、すべてを失う歴史となっていった。それとともに、黒い九月の作戦は、無計画ではないが無秩序で世間の支持を失うものとなっていく。一度解き放たれた暴力はどちらかが破滅するまで終わらない傾向があるのかもしれない。イスラエルからの暴力の主体はモサド。モサドと黒い九月の血で血を洗う抗争を緻密に、読みやすく書いてあるのは見事である。名前しか知らなかったような個別の事件が、紛争の一連の流れであることが実に良く分かったのが収穫。

 中東和平に感心のある方は必読といっても良いのではないだろうか。




UPデータ評価
132 2006.5.16
ぼくたち、Hを勉強しています

鹿島 茂著 / 井上 章一著

朝日新聞社 (2003.4)

☆☆☆☆☆


 やってたのしいSEXだけど、そこにたどり着くには長く苦しい道のりが待っている、ヒトもいる。当然といえば当然の如く非モテである私にとって身につまされる思いがする。しかし、若い男(あるいは女)が居れば性欲があるのは当たり前で、相手が居ないなら悶々とするしかあるまい。

 私のような引きこもりタイプは良いんだ、俺は読書のほうが楽しいんだと自分に言い聞かせた結果、本当に読書のほうが楽しくなっちゃったりすることもあるわけだが、それで諦めきれないなら勉強あるべし。というわけでこんな本をどうぞ。

 いやあ、もう、出るわ出るわ。面白い話が。考えてみれば、人類が誕生する遥か以前から綿々と受け継がれてきた行為であるからにはほとんど全ての方が興味を持つのは当たり前。なので、たとえば小説の中のSEX、社会の政治力学とSEX、男色の歴史、ラブホテルの前史と現在、痴漢、成金のスケベ趣味と書き出してみると眉をひそめる(のが良識と思われそうな)話題が盛りだくさん。で、どれも今の常識からは離れていて往時の風俗が垣間見られるのが面白い。

 それにしても驚かされるのは著者の一人である鹿島茂の知識の広さと深さ。あなたはなんでそんなこと知っているのですかと問い詰めたくなるくらい、いろいろな話を引っ張り出してくる。その縦横さだけで特筆に価する。それに歴史学者の井上章一、『大正天皇』を著した原武史まで加わってさらに話題を広げている。気が付けば”Hを勉強しています”なんて言葉はどこへやら、ただの面白い対談になってしまっているのだが、面白いからよしとする。と、このように大変面白いのだが、電車の中で読むのはお勧めしない。




UPデータ評価
133 2006.5.19
ハリー・ポッターと謎のプリンス

J.K.ローリング 作

静山社 (2006.5)

☆☆☆☆☆


 発売日にニュースになるのが恒例となったハリー・ポッターシリーズの6巻目。出会った頃にはまだまだ子供だった彼らも今ではもう少年とは言えなくなっている。それでもロン、ハーマイオニーとの友情は続いており、悪ふざけがすきなのだけは変わらない(もちろん、ハーマイオニーは除く)。

 ウィーズリー家の長男、ビルがフラーと結婚することになってすっかり荒れているところでハリーは二人と再会する。前の巻の最後でシリウス・ブラック(念のため、ネタバレ反転)を喪ったハリーはこれまで通りに無邪気に楽しむことはできない。物語は佳境を迎え、もう学校を舞台にした明るい冒険物語では済まなくなっている。

 そんななかで暗躍するドラコ・マルフォイ、ハリー、ロン、ハーマイオニーの恋、ハリーを以前より近づけ、自分の知ることの全てを教えようとするダンブルドア、と目が離せない展開が続く。マルフォイの狙いは何か。ダンブルドアは何をしているのか。楽しいシーンはずいぶん減ってしまったけれど、最終巻たる次巻につなげるのには非常に上手くいっていると思う。これまで読んできた人は間違いなく楽しめるだろう。

 一言で片付けてしまえばハリーがヴォルデモートに立ち向かう決意を固める巻、となるだろう。予想外の楽しみはあまりないが、最終戦の幕を開くに相応しい、読み応えある物語だ。ハリーの決意がどのような結末を迎えるか、今から楽しみである。

 それにしても、ネタバレしないように感想を書こうと思うと、そりゃあもう難しい。その点ノンフィクションは楽なわけで、小説を中心に面白い書評を沢山書ける人は尊敬に値するといっても良かろう。といいつつ小説はほとんど読まないのだけど。




UPデータ評価
134 2006.5.19
現代史の対決

秦 郁彦著

文芸春秋 (2005.12)

☆☆☆


 歴史上のことで多くの論争があるのは、その一例として邪馬台国論争を見れば分かるだろう。しかしながら、そういった古代史が(ほとんどの場合には)学問的なものであり、少々の感情的な含みがあったとしても著しく学問的な領域からはみ出すことはない。しかし、そうではない歴史分野が、確かにある。現代史である。

 というのも、現代史は必然的に現時点での世界と非常に密接な関係を持つため、どうしても政治が入り込んでくるためである。その結果、たとえば南京事件の被害者数では、中国側が公式に掲げる30万人に対して国内では0(!)から10数万人説までがある。一部に中国側の主張をそのまま取り入れる向きもあるが、実態はどんなに多く見積もっても10万まではいかないと思われる。

 で、被害の規模を議論しようとしても裏に政治的な思惑があるものだからどうにもならない。言い逃げ、証拠の捏造、隠蔽なんかは当たり前。靖国問題でも慰安婦問題でも、果ては教科書問題でもでるわでるわ。本書ではそんな問題の数々に、事実関係がどうなのかを丁寧に示しながら反論する。著者の主張の部分については全面的に賛同はできなくても、こういった込み入った問題に対して常に事実で迫るのは見事なことだと思う。

 何事も、論じるにはまず知ることからはじめなければならない。イデオロギーや政治的な嗜好が入り乱れる論点こそ、その重要性が上がると思う。そして、現代史の背後で鵺のように振舞う人々がいるということを知っておくことも利点になるだろう。




UPデータ評価
135 2006.5.23
言葉の常備薬

呉 智英著

双葉社 (2004.10)

☆☆☆☆


 言葉と言うものは毎日使うものである。そして、その目的は第一に他者との意思疎通にある。ということは、たとえ間違った言葉を使っていたとしても意思疎通ができれば問題はない、ということになる。ところが、そうやって意思疎通だけを優先に言葉を使っていくと語源からかけ離れてしまったり理屈に合わない変な話が出てきてしまったりする。

 だから、であろうか。語源を知ると言うのは少なからぬ楽しみがある。それも、予想外であればあるほど。

 本書はそんな言葉の薀蓄集である。さらに面白くしているのは、薀蓄の羅列にとどまらないところである。おまけにそれぞれ興味深いエピソードがあるものだからついつい読みふけってしまうと言うものである。言葉で遊ぶ楽しさを教えてくれる貴重な一冊。







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